「子どものもの」と思われがちな絵本だが、実は0歳から100歳までが楽しめる類を見ない文化といえる。研ぎ澄まされ練り上げられた豊かな言葉と、文字に表れない物語を紡ぐ絵とが相まって、読者を作品の中へといざなう。今回の展示は約250種600冊の絵本を実際に手に取ることができる。特に注目したい作品を紹介するので、絵本の世界を遊んでほしい。
大人だからこそ味わえる絵本として、「さっちゃんのまほうのて」、「おこだでませんように」を挙げたい。
「さっちゃん」は生まれつき手に障がいを持つ少女が主人公だ。「さっちゃんはおかあさんになれないよ! てのないおかあさんなんてへんだもん」という友達の容赦ない言葉に傷つくが、両親の深い愛情や周囲の支えに包まれて乗り越えていく。障がい児と家族に勇気を与え、多くの人が障がい者に心を寄せるきっかけとなった一冊だ。「さっちゃん」のモデルの一人は今、立派なお母さんになっている。
「おこだでませんように」の主人公は、小学校でも家でも怒られてばかりいる男の子。七夕の短冊に、習って間もないひらがなで書いたささやかな願いが切ない。作者のくすのきしげのりさんは長年、小学校教諭を務めた。多くの子どもたちと過ごしてきた作者ならではのまなざしが温かい。
「『アート』としての絵本」では「ぶどう酒びんのふしぎな旅」と、「ふしぎなにじ」が出色だ。「ぶどう酒」は、切り絵作家の藤城清治さんが1950年に初めて出版した影絵絵本を、86歳の誕生日にカラー化し再出版したものだ。「光と影の芸術人」と呼ばれる藤城さんの手による、木の葉やレースなどの繊細な影絵が見事で、空のグラデーションが美しい。
「ふしぎな」は、造形作家のわたなべちなつさんが手がけた初の絵本だ。鏡の織りなす多次元の空間が、絵本に新境地を開いた。
「ぐりとぐら」、「からすのパンやさん」は、世代を超えて読み継がれている作品だ。大きな大きなカステラと、数え切れないほどのユニークなパン。いずれもあまい香りがたちのぼりそうな絵本となっている。
「ぐりとぐら」シリーズで、珍しく人間の子どもが登場する「ぐりとぐらとすみれちゃん」。すみれちゃんは、病気のため4歳で亡くなった実在の女の子がモデル。病床でも「ぐりとぐら」を読んでいたという女の子は、絵本の中で元気な姿を見せている。
「からすのパンやさん」は、今月末に90歳(記事掲載当時)になる絵本界の重鎮、かこさとしさんの代表作の一つだ。2013年には、40年ぶりに続編が刊行された。子がらす4きょうだいの成長をたどる。それぞれに仕事を持ち、結婚していく姿が感慨深い。
毎日新聞 2016年3月17日朝刊14面
「絵本と私の物語展:子どもから大人まで楽しめる 本紙・木村葉子記者が解説」より転載
※毎日新聞社許諾済み
赤ちゃんから高齢者まで楽しめる絵本は、絵と言葉、装丁が織りなす総合的な芸術作品ともいわれます。限られた言葉と、言葉に表れていない情景が立ち上がる絵を描くために、作家は完成まで何度も試作品を作り細部にまでこだわるのです。そこには、「純真な子どもにうそはつけない」という作り手の真摯な姿勢がうかがえます。これまで取材で出会った作家の方々のこだわりを紹介します。
はせがわかこさんの『102ひきのねずみ』(金の星社)には、「10年間構想を温めた」というこだわりがぎっしり詰まっています。本作で描いた両親と100匹の子ネズミは、区別ができるよう全員が異なる色や模様の服を着ています。主人公のアカネズミのほか、描き込んだ草花、ハーブも丹念に調べたのだそうです。「物語以外に頭の中で設定していることがたくさんあります。なぜこの絵を描いたのか、理由を説明できるようにしています」
「聞かせ屋。けいたろう」を名乗り絵本の読み聞かせをしている坂口慶さんは、『どうぶつしんちょうそくてい』(高畠純・絵、アリス館)を制作するために何度も動物園に出掛けました。動物園の協力を得て登場するウサギ、ワニ、シロクマ、キリンの身長を計測し、絵本では身長計と動物の大きさが、実寸の縮尺通りに示されています。
鏡の効果を使った仕掛け絵本を手掛ける渡辺千夏さんは、『きょうのおやつは』(福音館書店)でパンケーキが焼けるまでを描いています。過程をスケッチするため、たくさんパンケーキを作りました。上手に焼けるようになりましたが、「十分すぎるくらい食べた」と笑います。
小人が大活躍する人気絵本『おたすけこびと』(なかがわちひろ・文、徳間書店)シリーズには、工事現場で働く車両が多く登場します。絵を描くコヨセ・ジュンジさんは、クレーン車やショベルカーなどを撮影し、本やインターネットで機能を詳細に調べました。車両の絵は、「建設現場のプロが見ても違和感がない」と自負するほど微細な仕上がりになっています。
一冊の絵本に込められた作家の思いや苦心を想像するだけで、作品へのいとおしさが募ってくるようです。
【木村葉子】
毎日新聞 PR版
「絵本と私の物語展:総合芸術 細部へのこだわり深く 木村葉子」より転載
※毎日新聞社許諾済み
私たちに身近な絵本。絵本とはどのようなもので、絵本の読み聞かせはどのような点に心がければよいのだろうか。「絵本とわたしの物語展」(主催・創価学会「絵本とわたしの物語展」実行委員会、企画協力・毎日新聞社)の開催を機に、絵本と絵本の読み聞かせについて長年研究し、『絵本のひみつ』(徳島新聞社他刊)の著作がある鳴門教育大大学院(徳島県鳴門市)の余郷裕次教授(国語科教育専攻)に語ってもらった。
絵本とは、何でしょうか。
一言で定義すると「『養育者(母親ら)』がデザイン化されたもの。私と私の養育者の物語が書いてある本」です。
私たち人間が生まれた時、視力は0・01〜0・02です。養育者のリアルな顔は覚えられず、「ぼんやりまるい物」でしかありません。
絵本のキャラクターを思い出してください。「うさこちゃん」のように、ぼんやりまるい物というのが基本形です。ドラえもん、アンパンマン、サザエさん一家といった漫画のキャラクターの顔がまるいのも、私たちが最も愛してもらった対象である養育者の記憶をモデル化しているのです。各地の「ゆるキャラ」も、同様です。私たちは、あまり意識していないこの仕掛けに魅了されてしまっているのです。
生まれたばかりの私たちは、色の識別が未発達で、白黒しか分かりません。ただ、目を見つめる本能として「目」の記憶は残ります。絵本のキャラクターも、基本形は白色です。私たちは養育者、最も愛してくれた人を「まるくて白くてぼんやりとして、目が大きく強調された存在」として、記憶しているのです。
パンダが大人気なのはこうした理由からです。女性が化粧する際には「自分を愛してくれた、最高の存在」に近づこうと、無意識に「より白く」「目だけよりパッチリ大きく」しますよね。世界中からカメラマンが京都を訪れ、舞妓さんの真っ白な顔が〝作られた顔〞と分かっていても、美の対象として撮影しています。
絵本は、容易に思い出すことができない、0歳、1歳、2歳の時の物語です。加えて、「養育者がしてくれたこと」も書いてあるのです。『はじめまして』(新沢としひこ・作、大和田美鈴・絵 鈴木出版)の表紙、男の子の顔をよーく見てください。下半分は、お母さんの象徴といえるおっぱいです。
「母の愛」を感じる絵本の仕掛けが、受け手の潜在意識に働きかけ、愛されている感覚をもたらすのです。乳児の時に授乳され、母に愛された記憶が呼び覚まされるのです。
私たちが赤ちゃんの時に経験するのは、優しく「見つめられ」「語りかけられ」「抱きしめられ」「授乳される(=欲求が満たされる)」こと。大きく分けてこの四つです。
「絵本とわたしの物語展」を実際に鑑賞してみても分かりますが、絵本のストーリーの裏側にある「私と養育者の物語」「私が愛された無意識の物語」が絵本で展開されているのです。絵本を読むことでもう一度、私と養育者の愛の物語が呼び覚まされます。そのことによって、絵本を読んだ時点で、人をどう愛したらいいのかが分かるのです。
絵本の読み聞かせは「愛されたこと、容易に思い出せない物語をもう一度、呼び覚ます」ものです。愛された記憶が刺激され、どんなに愛されてきたかを感じることなのです。絵本で「愛された」物語にもう一度出会える。今の自分を映す鏡にもなるし、今後、人をどう愛していけるかという未来をも映してくれるのです。「見つめられ、語りかけられ、抱きしめられ、欲求が満たされる」という四つの要素を、あまり技術がなくても提供できるのが、絵本の読み聞かせです。読み聞かせのキーワードは「愛」。「人に対する愛、人が展開する社会、世界に対する愛」です。
読み聞かせる際は、養育者と子どもの一対一が基本です。ことばの繰り返しは、抑揚のきいた高い声で読みましょう。読み手自身の感情を込めるのではなく、絵本に書いてある通りの感情を込めて読みます。読み聞かせの途中や終わった後に、子どもに質問をしたり、感想を求めたりするのは、一番やってはいけないことです。絵本に夢中になって、「無意識の愛された経験」が呼び覚まされているのに、質問や感想を求めると、意識が立ち上がってしまうので、ぶち壊しになります。
読み聞かせの理想の姿勢は、子どもをひざの上に置くことです。スキンシップを保障し、絵本の中の出会いたい人に出会って、ことばが後ろから〝降ってくる〞という状態です。2人以上の子どもがいる場合も、できれば一緒に読み聞かせをするのではなく、お兄ちゃんやお姉ちゃんにも、下の子が寝ている間などに、一対一で読み聞かせる時間をつくってあげましょう。
一方、不思議なことに、学校の授業などで絵本の読み聞かせを聞いているときは、原初的な体験を呼び覚まされているので、読んでいる先生から一対一で愛されているような満足感を得られるようです。「自分は先生に特別に愛されている」「先生は、自分だけを見てくれている」というふうに。
絵本の読み聞かせが幼稚園や保育園の段階で終わってしまい、小学校以上では定着していません。「学校文化」になっていないのです。
しかし、愛されることに、年齢制限はないはずです。小学生はもちろんのこと、中・高・大学生も、大人も絵本に触れることで、愛された経験がよみがえるのです。たとえ絵本を読むのが初めての大人でもよみがえります。
どんな絵本を選んだらよいか悩んでしまう方もいると思いますが、直感的に「好き」というものを読んでみてください。絵本は「わたしの物語」ですから、私が好きなことが大切です。その出会いの場として、「絵本とわたしの物語展」は絶好の機会になると思います。
2017年発行/毎日新聞PR版「絵本とわたしの物語展」
鳴門教育大大学院学校教育研究科教授。「国語科教材開発研究」など、主に国語科教育分野を担当し、中等国語教材史研究、音読・朗読の研究、絵本と絵本の読み聞かせの研究を専門としている。学校などへ出向いて絵本の読み聞かせを実践し、その普及にも取り組む。著書に『絵本のひみつ』(徳島新聞社他)、共著に『国語教育を学ぶ人のために』・『読書教育を学ぶ人のために』(世界思想社)ほか。
子どもも大人も楽しめて、幸福な時間を広げる絵本。絵本作家の岡田よしたか先生は、野球をする揚げ物やマラソンをするお弁当のおかずなど食べ物が奮闘するユニークな「たべもの絵本」シリーズで人気を博しています。「絵本とわたしの物語展」(創価学会主催)の開催に合わせ、その誕生秘話から絵本の魅力まで、奈良県の仕事場で聞きました。
今でこそ絵本作家として活動していますが、実は幼少期に絵本を読んだ記憶はほとんどありません。初めて絵本をしっかり読んだのは、30歳を過ぎてからです。
絵を描くのはもともと好きで、芸大に進んだのですが、卒業はしても絵をなりわいにするのは難しい。20代でアルバイトを転々とするなかで身に染みたのは「自分は売り上げや効率を追い求めるのは向いていないなあ」ということ。そんなある日、保育園の募集を目にしてビビッときました。子どもたちと向き合う仕事の方が幸福なんじゃないかと思ったんです。資格なしからのスタートでしたが、31歳のときに縁あって働き始めることができました。それが人生の転機。保育園にはもちろんたくさんの絵本があります。絵本といえば昔話というイメージしかなかった私にとって、創作絵本の多彩な表現は衝撃的で、どんどん興味を引かれていきました。
とはいえ、その時点では絵本を描こうという思考には至りませんでした。絵は得意でも、ストーリーを考えるのは苦手だったんです。でも、きっかけはどこに転がっているか分からないものですね。絵は働きながらほそぼそと描き続けていて、あるときある人に誘われて、東京でのグループ展に参加することになりました。そこで出版社の方に絵本を描いてみないかと声をかけられたんです。出展したのは銭湯でひらめいた連作絵画、その名も『全日本オールヌードマラソン』。裸のおじさんがあちこちを走り回る展開に物語性を見いだして声をかけてくれたようでした。あまりにもシュールな作品だったので「これをやれと言っているわけではありません」と念押しされたのを覚えています。
絵本を描くなんて思ってもみなかった私も、無事に小学校低学年向けの月刊誌『おおきなポケット』(福音館書店)でデビュー。しかしその後初の単行本『おーいペンギンさーん』を出すのには3年かかりました。編集者さんに次作の構想を描いたラフを見せるたび、ストーリーの修正を求められるんです。最初はつらいと感じることもありましたが、次第に闘志がわいてきて、絶対に面白いものを作ってやろうとめらめらしてきました。結局ストーリーが固まって本描きに入った頃には、取り掛かってから2年以上がたっていました。
デビューから20年近く絵本を描き続けても、いまだにストーリーには最も悩まされています。2〜3カ月かかるのは当たり前で、何度も修正した末にボツになることも。ただ、読者を楽しませる面白いストーリーを考えるのが、絵本づくりの最大の醍醐味なんですよ。
『おーいペンギンさーん』が出て、絵本づくりに一層意欲的になった私。ところがまた、何度ラフを出してもやり直し。だんだんと腹が立ってきて、自分の好きなように本描きまで終わらせてしまおうと、紙芝居のような形で新作を完成させました。すると編集者さんが見るなり「面白いから本にしよう」と一言。これが『特急おべんとう号』で、たべもの絵本シリーズの第一作となりました。
食べ物は絵本作家になる前からよく描いていたモチーフの一つ。家の食材やスーパーのチラシを見ながら、食べ物が踊ったり飛んだりするように描いていると、本当に意思を持っているように見えてくるのが面白いんです。
日常の中で、食べ物を見てひらめくこともあります。例えば『だいこんさんおふろにはいる』は、たらいに入った大根からインスピレーションを受けて描いた作品です。水が入ったたらいに大根がぎゅうぎゅう詰めになっているのをキッチンで発見。「きゅうくつやなー」といっている声が聞こえた気がして、すぐさま写真に記録しました。
私が描くのは目も口もない食べ物たちですが、喜怒哀楽が伝わるような表現を心がけています。「まるで生きているみたい」と感じてもらえたらうれしいですね。
私が絵本を描くうえで大切にしているのは、とにかく笑えること。そのためにはぜひ声に出して読んでみてください。私の絵本は、書店に売られている状態では未完成。読み聞かせをして初めて完成するんです。
なぜならストーリーだけでなく、セリフの間や強弱にも笑える要素を詰め込んでいるから。子どもの頃の私にとって、絵本がわりになってくれたのが、テレビのお笑い番組の明るさや温かさ、話芸の豊かさでした。飽きるほど浴びたお笑いのノリが絵本に表れていると思います。
時折「関西弁のセリフを読むのは難しい」という声をいただくこともありますが、気にせずとにかく大きな声で読むことが大切だと伝えたいですね。もちろん別な方言を使って読んでもいい。声に乗ったセリフは、ずっと笑えるものになるはずです。
気を付けてほしいのは、目に見える反応だけにとらわれないこと。やはり読み聞かせをすると、笑ってほしい、感動してほしいと反応を求めてしまいがちです。でも笑っていないからといって、面白いと思っていないかというとそうでもありません。笑える話は笑えるように読むけれど、無理に反応を引き出すのではなく、感じ方は子どもに任せるのが読み聞かせのコツです。
保育園に勤めていたときから今日まで数えきれないほど読み聞かせをしてきましたが、いまだに読み聞かせ後に、にこにこしている子どもたちの顔を見るのはうれしいです。「絵本とわたしの物語展」なら、そんな子どもと大人の幸福感を生むような絵本がきっと見つかるはずです。
2022年発行/毎日新聞PR版「絵本とわたしの物語展」
1956年大阪府生まれ。80年愛知県立芸術大学油画科卒業。98年小学校低学年向け月刊誌『おおきなポケット』(福音館書店)に掲載された『あやまりたおすひとびと』で絵本作家デビュー。その後『うどんのうーやん』『ちくわのわーさん』(ブロンズ新社)をはじめとしたたべもの絵本シリーズで人気を集める。
私たちのよく知る「3びきの子ブタ」は、子ブタの3兄弟が、ワラ、木の枝、レンガで家を建てますが、ワラと木の枝の家はオオカミに吹き飛ばされてしまいます。しかし、レンガの家は吹き飛ばされず、そこで3匹は幸せに暮らしました、というあらすじです。
「3びきの子ブタ」の発祥には諸説ありますが、このあらすじは、ジェイコブズの『イギリス童話集』(1898年刊)によっています。しかし、原文をよく読むと、家が吹き飛ばされた子ブタはオオカミに食べられます。そして、レンガの家を壊せなかったオオカミは、子ブタとの知恵比べに敗れ、逆に子ブタに食べられるという意外な結末になっています。
本展では、オオカミの側から物語が語られていて、最後まで読むと何が真実なのか、よく分からなくなるパロディや、ブタが悪役という設定のものなど他にもいろいろな「3びきの子ブタ」を紹介しています。
一般によく知られている「赤ずきん」はグリム兄弟の原作です。
『グリム童話』は19世紀にグリム兄弟が、主にドイツの民話を集めたものですが、『赤ずきん』ではドイツ民族の誇りを取り戻すため、創作に近い改変をしています。赤ずきんは「ドイツ」、オオカミは当時の敵国である「フランス」を象徴しており、一度は食べられた赤ずきんの復活には、赤ずきん=ドイツは永く栄えるというメッセージが込められているそうです。
近年は、ポップな赤ずきんや、生命力にあふれた赤ずきんなど、かつての「赤ずきん」像を塗り替える絵本が登場しています。また、赤ずきんがオオカミと結婚して、幸せに暮らした話など、新たな結末も生まれています。
1962年に出版した絵本『ABC』で、権威あるケイト・グリーナウェイ賞を受賞したブライアン・ワイルドスミス氏。“色彩の魔術師”と称される華麗な筆致で、現代絵本の土台を築いた一人です。
他人の物語のために絵を描くことはなかったワイルドスミス氏ですが、池田SGI(創価学会インタナショナル)会長の童話を読み、「どの作品も深い洞察があり、ユーモア、慈悲、希望が、みごとに表現されている」と心を動かされました。
1988年11月、東京で二人は初めて出会います。その際、ワイルドスミス氏からSGI会長の4作品の童話(『雪ぐにの王子さま』『青い海と少年』『お月さまと王女』『さくらの木』)について自ら挿絵を描き、イギリスのオックスフォード大学出版社から英語版を出したいとの提案がありました。その後、約4年をかけて、4部作の完成に至っています。
かつて子どもは「小さな大人」とされ、大人と同じように仕事をし、生活の一端を担いました。現在のように「子どもを教育する」という考え方はありませんでした。
しかし、時代とともに次第に「教育」へ目が向けられると、子どもの興味や能力を引き出し、楽しく効果的に学べる絵本が誕生・発展していきました。
ヨーロッパで絵本の原型となったのは、17~18世紀にかけてイギリスで作られた「チャップブック」です。民話や歴史などが収められたチャップブックは印刷技術を使って安価で大量に作られたため、広く子どもの手に渡りました。
1658年には子どもの教育を目的とした初の絵本がドイツで誕生します。コメニウス著『世界図絵』です。この本では、章ごとに絵や図を見ながら「世界」「花」「パン作り」などを学ぶことができます。『世界図絵』が子どもの教育に一定の効果を発揮したことで、絵本の力が注目されました。
日本では、12世紀に興隆した『源氏物語絵巻』や『鳥獣人物戯画』などの絵巻物が絵本のルーツとなっています。その後、絵巻物の簡略な冊子化が始まり、気軽に手に取れる「絵本」へと発展していきます。